シンポジウム1

双方向モバイルアプリを活用した運動療法

【講師紹介】

近藤先生は患者の痛みやセルフエクササイズの実施状況をモニタリングできる双方向性のモバイルアプリを作成されています。また、アプリ内では患者の病名や疾患部位に応じた運動メニューを提案し、動画や紙面で共有することで、患者の理解度を高められています。このような双方向性のモバイルアプリは、運動のアドヒアランスを向上し、行動変容につながることから、慢性疼痛患者のマネジメントへの活用が期待されます。

デジタルヘルスリハビリテーションが促す行動変容

【講師紹介】

金居先生はモバイルアプリとモニタリング・デバイスを用いた行動医学的アプローチに関する研究を行われています。金居先生の研究対象は生活習慣病関連疾患ですが、モバイルアプリとモニタリング・デバイスを用いたデジタルヘルスリハビリテーションは行動医学的アプローチが求められる慢性疼痛患者の疼痛管理や活動促進においても有用な可能性が高く、非常に興味深いご講演です。

【文献紹介】

デジタルヘルスを活用した慢性疾患既往者への重症化予防事業の実際
 金居督之・他, Geriatric Medicine(老年医学).2020
金居先生はモバイルアプリとモニタリング・デバイスを用いた客観的データの収集ならびにそのデータを用いた個別的な支援を行っています。本稿ではこれらのモバイルヘルスの技術を活用した重症化予防事業の一つとして、生活習慣改善指導プログラムの効果ならびに高齢者に対するIT技術の適用についてご紹介されています。モバイルアプリとモニタリング・デバイスを用いたデジタルヘルスリハビリテーションは大変興味深く、ペインリハビリテーションにおける活用が期待されます。

A Mobile Health-Based Disease Management Program Improves Blood Pressure in People With Multiple Lifestyle-Related Diseases at Risk of Developing Vascular Disease - A Retrospective Observational Study
 Kanai M et al., Circ Rep. 2022
本論文では、生活習慣病関連疾患患者に対するモバイルアプリとモニタリング・デバイスを用いたデジタルヘルスリハビリテーションの効果を検証されています。デジタルヘルスを用いた疾患管理プログラムは有害事象を生じさせることなく、対象者の血圧ならびに体重を低下させました。本研究の知見はデジタルヘルスを用いた疾病管理や行動変容が有効である可能性を示しており、疼痛医療への応用が期待されます。

ビッグデータが導く新規介入戦略

【講師紹介】

池田先生は公衆衛生分野に精通されており、特に反実仮想モデルを用いた大規模疫学調査のデータ解析により新規介入戦略の開発を進められています。企業マーケティングでも取り入れられている反実仮想モデルは、患者層別による介入戦略の基盤構築につながることが期待されています。ビッグデータを用いたペインリハビリテーションの新規介入戦略に関する知見についてご紹介いただきたいと思います。

【文献紹介】

Maintaining Moderate or Vigorous Exercise Reduces the Risk of Low Back Pain at 4 Years of Follow-Up: Evidence From the English Longitudinal Study of Ageing
 Ikeda T et al., J Pain. 2022
本論文は、腰痛を有さない4,882名を4年間追跡し、腰痛の発生リスクに対する身体活動の影響を調査しています。結果、月に1-3回の中等度または高強度の身体活動は腰痛の新規発生を予防できる可能性が示されました。そして、この研究では2年間の継続的な身体活動の維持が、4年間の追跡調査で腰痛のリスクを軽減することが示唆されました。

Changes in Body Mass Index on the Risk of Back Pain: Estimating the Impacts of Weight Gain and Loss
 Ikeda T et al., J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2023
本論文では、イギリスの6,868名の縦断データを基に、BMIと腰痛の発症リスクについて層別化して検証されています。BMIが5%~25%減少または増加する10のシナリオを想定された中で、BMIが10%減少すると腰痛リスクが低下し、5%増加すると腰痛リスクが高まることが推定されています。また、BMIが増加し、かつ握力が弱い集団で腰痛リスクが高まることが推定されました。このように、観察データを用いた機械学習によって層別化した効果が推定でき、今後のさらなる活用が期待されます。