シンポジウム2

評価の新機軸 -病態メカニズムの把握-

【講師紹介】

服部先生は運動器疾患を対象としたクリニックから痛みセンターまで広く従事され、その中でQSTを指標とした研究を数多く報告されています。また、疼痛部位ごとに痛みの特徴が異なることを明らかにするとともに、多面的な評価をもとに運動療法の効果が期待できる患者の特徴を示すなど、その研究内容は多岐に渡ります。今回はQSTを含む多面的な評価に基づく病態メカニズムの把握についてご紹介いただきます。

【文献紹介】

Association of Chronic Pain with Radiologic Severity and Central Sensitization in Hip Osteoarthritis Patients
 Hattori T et al., J Pain Res. 2021
本論文では、変形性股関節症患者の痛みと関節変形の重症度、そして中枢感作との関連性について検証されています。その結果、変形性股関節症患者の主観的疼痛はX線画像で評価される関節変形の重症度ではなく、定量的感覚検査で評価される中枢感作と関連することが明らかにされています。これらの結果は、関節の変形が重症でないにも関わらず強い痛みを訴える変形性股関節症患者の関節痛には中枢感作が関与している可能性を示唆されています。

Pain Sensitization and Neuropathic Pain-like Symptoms Associated with Effectiveness of Exercise Therapy in Patients with Hip and Knee Osteoarthritis
 Hattori T et al., Pain Res Manag. 2022
本論文では、変形性股・膝関節症患者に対する12週間の運動療法の治療反応性に関わる要因について検討されています。今回の結果から、変形性股・膝関節症患者において、関節変形が軽度であったとしても、治療開始前の疼痛が強く、中枢感作や神経障害性疼痛様症状を有する場合は、運動療法の治療反応性が乏しいことが明らかにされています。介入方法を模索する上でヒントとなる論文です。

Predictive Value of Pain Sensitization Associated with Response to Exercise Therapy in Patients with Knee Osteoarthritis: A Prospective Cohort Study
 Hattori T et al., J Pain Res. 2022
本論文では、変形性膝関節症患者に対する12週間の運動療法の治療効果から、治療反応性が高い集団(30%以上の鎮痛)と低い集団(30%未満の鎮痛)に分けて特徴が抽出されています。その結果、治療反応性が低い集団では広範性の痛覚過敏を認めました。また、罹患部や遠隔部の圧痛閾値や罹患部の時間的荷重は、運動療法の治療反応性に対して中等度以上の予測能を示しました。運動療法前の定量的感覚検査は運動療法の効果の期待値の予測に有用な可能性があります。

物理療法の新機軸 -しびれ感に対する治療-

【講師紹介】

これまで、感覚神経障害によるしびれ感への対応には難渋し、その介入戦略の確立が望まれてきました。西先生は、そのような感覚神経障害によるしびれ感に対して、しびれ同調経皮的電気神経刺激(TENS)と呼ばれる新たな介入方法を開発し、その効果検証を行っています。

【文献紹介】

A novel form of transcutaneous electrical nerve stimulation for the reduction of dysesthesias caused by spinal nerve dysfunction: A case series
 Nishi Y et al., Front Hum Neurosci. 2022
本論文は、しびれ感を呈する脊髄神経障害患者に対して、TENSのパラメーターをしびれ感に一致させる“しびれ同調経皮的電気神経刺激(TENS)”を実施した研究です。その結果、即時的にしびれ感が低減するとともに、触覚感度やアロディニアが改善することが示されています。しびれ感に対する新たな介入方法を提唱した興味深い論文です。

中枢神経障害によるしびれ感に対するしびれ同調経皮的電気神経刺激の効果検証 ─シングルケース実験デザイン─
 西 祐樹・他, 物理療法科学. 2023
本論文では、脳卒中や多発性硬化症等の中枢神経障害によるしびれ感を呈した患者に対してしびれ同調TENSの即時効果および長期効果を検証されています。その結果、しびれ同調TENSは中枢神経障害によるしびれ感に対する即時効果および長期効果を示すことが明らかとなっています。しびれ感に対する介入の新機軸に関連する文献です。

運動療法の新機軸 -層別化に基づく治療-

【講師紹介】

田中先生は、主に変形性膝関節症などの運動器疾患を対象に、保存療法や手術療法後の患者を対象とした研究活動や臨床実践に携わっています。関節の器質的な問題から、近年注目されている中枢性感作・身体知覚異常まで、多面的な観点から痛みの評価を行ったうえで、その評価結果に基づいて患者を層別化し、治療の選択を実践されています。

【文献紹介】

Identifying participants with knee osteoarthritis likely to benefit from physical therapy education and exercise: A hypothesis-generating study
 Tanaka S et al., Eur J Pain. 2021
本論文では、患者教育・運動療法の効果が得られやすい変形性膝関節症患者の特徴について検討しています。結果から、身体知覚異常が軽度で、構造的変化の重症度が軽度の者では運動療法の効果が得られやすいことが明らかとなりました。また、身体知覚異常が重度の方は、運動療法の前にこれらを改善することが必要な可能性が示されました。このような層別化は、運動療法の最適化につながることが期待されます。

“But it feels swollen!”: the frequency and clinical characteristics of people with knee osteoarthritis who report subjective knee swelling in the absence of objective swelling
 Tanaka S et al., Pain Rep. 2021
本論文では、変形性膝関節症患者を対象に、実際に腫脹はないにもかかわらず「腫れている」と訴える患者の割合とその臨床的特徴を調査しています。対象者の約3割にこのような所見がみられ、重度の痛みや機能障害を伴っていることが示されました。本研究の知見は、疼痛に身体イメージが影響していることを示しており、その変化を考慮することで、変形性膝関節症の新たな治療ターゲットとなる可能性を示唆しています。