特別講演

【講師紹介】

「痛覚変調性疼痛」は、国際疼痛学会が痛みの第3の機構として提唱した「nociplastic pain」に対する日本痛み関連学会連合による公式訳です。この新概念は侵害受容や神経障害などの原因が消失した後、あるいはそれらが存在していなくとも続く痛みを説明しうる概念です。そして、そのような痛みの機序も解明されつつあり、効果的な慢性疼痛治療の開発につながることが期待されています。第28回学術大会の特別講演では、日本痛み関連学会連合用語委員会委員長である加藤総夫先生(東京慈恵会医科大学痛み脳科学センター)をお招きし、第3の疼痛“痛覚変調性疼痛”の概念と現在までに明らかにされているメカニズム、今後の慢性疼痛治療の可能性についてご講演いただきます。

【文献紹介】

「痛み」を生み出す脳機構
 加藤総夫・他:実験医学.2020
本総説では、「痛みはどこでどのように感覚的かつ情動的な体験になるのか」、「痛みの慢性化はどのようなネットワークの可塑的変化をともなうか」といった疑問について、脊髄(三叉神経)一腕傍核一扁桃体中心核のシナプス伝達の痛み依存的可塑性の例を紹介されています。第3の疼痛”痛覚変調性疼痛”について加藤先生のグループが研究された内容を中心に記載されているのでぜひご一読ください。

Active role of the central amygdala in widespread mechanical sensitization in rats with facial inflammatory pain
 Sugimoto M, Kato F et al., Pain. 2021
本論文では、ラットの口唇にホルマリンを投与することで生じる患部の遠隔部(足底)における痛覚閾値の低下(中枢感作)には扁桃体中心核が関与していることが明らかにされています。痛みの慢性化の機序における扁桃体中心核の役割について、多数の方法論を用いて検証した興味深い論文であり、“痛覚変調性疼痛”の理解を深めることができる内容となっています。ぜひご一読ください。

Acetaminophen and pregabalin attenuate central sensitization in rodent models of nociplastic widespread pain
 Yajima M, Kato F et al., Neuropharmacology. 2022
口唇部ホルマリン炎症誘発広汎性痛覚過敏モデルと扁桃体活性化広汎性痛覚過敏モデル(身体のどこにも炎症が無いモデル)を用いて、アセトアミノフェンなどの効果を検討しています。その結果、アセトアミノフェンは前述の2つの動物モデルにおける痛覚過敏を改善することが示されています。また、プレガバリンやデュロキセチンの効果も検証されています。慢性疼痛治療の新機軸に関連する文献ですので必読です!