教育講演

拘縮の病態とメカニズム

【講師紹介】

本田先生は骨格筋の不動により生じる「筋性拘縮」について、実験動物モデルを用いた基礎研究を通じてその発生メカニズムに関わる標的分子を明らかにされてきました。そして、現在はそれらを基盤とした新規治療戦略の開発研究へと発展させ、物理療法のデバイスの一つである骨格筋電気刺激療法の効果検証に関する産学共同研究を行われています。

【文献紹介】

Upregulation of interleukin-1β/transforming growth factor-β1 and hypoxia relate to molecular mechanisms underlying immobilization-induced muscle contracture
 Honda Y et al., Muscle Nerve. 2015
本論文は不動による骨格筋の可塑的変化によって発生する筋性拘縮に焦点をあて、その発生・進行のメカニズムに関わる分子機構の探索を行った基礎研究です。本研究の結果から、筋性拘縮は不動後1週目から生じており、その発生にはマクロファージの集積を契機としたIL-1β/TGF-β1シグナリングの活性化が、その進行には骨格筋の低酸素状態の惹起が影響することが明らかとなっています。

Relationship between extensibility and collagen expression in immobilized rat skeletal muscle
 Honda Y et al., Muscle Nerve. 2018
本論文は、筋性拘縮の病態に関わる線維化と筋の伸張性の関連を検討した基礎研究になります。本研究の結果から、線維化の指標であるコラーゲン含有量と筋の伸張性の指標である他動張力の間には強い正の相関関係を認めており、線維化の進行と相まって筋の伸張性が低下することが示唆された内容となっています。

Muscle contractile exercise through a belt electrode device prevents myofiber atrophy, muscle contracture, and muscular pain in immobilized rat gastrocnemius muscle
 Honda Y et al., PLoS One. 2022
本論文は不動に関連した機能障害である運動器不活動症候群に対し、ベルト電極式骨格筋電気刺激(B-SES)による筋収縮運動を負荷した際の、筋萎縮や筋性拘縮、筋痛に対する効果を検討した基礎研究です。本研究の結果から、筋収縮頻度が高い条件でB-SESによる筋収縮運動を負荷すると、不動によって惹起される筋萎縮や筋性拘縮、筋痛の進行を抑止できることが明らかとなっています。

ペインマネジメントに活かす電気刺激療法の基礎知識

【講師紹介】

生野先生は日本物理療法研究会の理事長を務められており、物理療法全般に精通された先生です。生野先生はこれまで、脳卒中患者からしびれを有する患者まで、多岐にわたる対象者に対する電気刺激療法の効果を検証されており、正に本邦における電気刺激療法研究のトップランナーです。今回は、ペインマネジメントにおける電気刺激療法に関して、基礎知識や効果的な活用方法をご講演いただきます。

【文献紹介】

人工膝関節全置換術後症例に対する感覚強度の神経筋電気刺激の効果 - 予備的準ランダム化比較対照試験
 吉田陽亮, 生野公貴・他, 物理療法科学. 2014
本論文はTKA術後患者に対するNMESの効果を検証した報告です。術後3週目から週5回、2週間の感覚レベルNMESを適用すると、疼痛の回復促進効果は得られないものの、筋力や歩行能力の改善につながることが明らかになりました。また、対象者の内省からは「痛くない、これなら続けられる」と回答されている方もおり、疼痛軽減にもつながる可能性が示唆されています。TKA術後のNMESは、筋収縮が伴わない感覚レベルの適用でも身体機能の改善をもたらす可能性を示した興味深い論文です。

Comparison of the Effect of Sensory-Level and Conventional Motor-Level Neuromuscular Electrical Stimulations on Quadriceps Strength After Total Knee Arthroplasty: A Prospective Randomized Single-Blind Trial
 Yoshida Y, Ikuno K et al., Arch Phys Med Rehabil. 2017
本論文はTKA術後におけるNMESの効果を検証した報告です。運動レベルNMESと感覚レベルNMESはいずれも筋力や歩行能力を改善しました。一方で、疼痛軽減効果には差がなかったものの、運動レベルNMESを受けた一部の対象者は不快感からドロップアウトされています。術後の適用においては感覚レベルNMESの方が不快感がなく、有用な可能性が示唆されています。

患者のセルフマネジメントを高める目標設定

【講師紹介】

友利先生は作業に基づいた目標設定における共有意思決定を促進するためのアプリケーションを開発されています。アプリケーションを用いた目標設定は、患者にとって意味のある作業を抽出する手助けとなり、患者とセラピストの共有意思決定を円滑に進める上で有用なツールとなっています。そして、作業に基づく目標設定を用いたアプローチは、従来の機能障害に基づくアプローチと比較して患者の主体性を高め、ADLや社会参加能力を高める可能性があることから、疼痛患者への適用が期待されます。

【文献紹介】

Characteristics of goal-setting tools in adult rehabilitation: A scoping review
 Okita Y, Tomori K et al., Clin Rehabil. 2023
本論文では、成人のリハビリテーションにおける目標設定に関する文献の特徴を、スコーピングレビューを用いて検討しています。採用された165の文献から、既存の目標設定ツールの特徴やその対象者、ニーズが包括的に概観できます。疼痛患者を対象としたリハビリテーションの臨床実践において、効果的な目標設定を行うために必要な情報として、目標設定ツール別の特徴や対象領域が学べる、興味深い論文です。

Utilization of the iPad application: Aid for Decision-making in Occupation Choice
 Tomori K et al., Occup Ther Int. 2012
本論文では、作業に基づいた目標設定における共有意思決定を促進するためのアプリケーションの開発ならびにその有用性の検証を行っています。90%以上のクライエントがアプリケーションを用いた目標設定によって自身の意見を述べることができたと回答し、90%以上の作業療法士がクライエントの目標設定に際して臨床場面で有用であると回答しました。この結果から、作業に基づいた目標設定において、共有意思決定の場面におけるアプリケーションの活用はクライエントと作業療法士の双方にとって有用であることが示唆されており、疼痛領域における活用が期待されます。

Effectiveness and Cost-Effectiveness of Occupation-Based Occupational Therapy Using the Aid for Decision Making in Occupation Choice (ADOC) for Older Residents: Pilot Cluster Randomized Controlled Trial
 Nagayama H, Tomori K et al., PLoS One. 2016
本論文では、アプリケーションを用いた作業に基づく目標設定が、従来の機能障害に基づくアプローチと比較してADLの改善や費用対効果が得られるかについて、無作為化比較試験によって検証されています。その結果、アプリケーションを用いた目標設定は従来のアプローチと比較してADLを有意に改善し、費用対効果も高まることが明らかとなりました。