エキスパートに学ぶ臨床実践

ワークショップ①
慢性疼痛に対するペインリハビリテーション
ベーシック編;慢性腰痛

【企画内容】

本ワークショップでは、慢性疼痛に対するペインリハビリテーションの実践について学ぶことができます。具体的には、ベーシック編として慢性腰痛を取り上げて、評価項目の選択や評価結果に基づく病態推論、運動処方や患者教育、アクティビティー・ペーシングの実際について学ぶことができます。これらの内容について、講師と進行役の先生方、参加者のディスカッション、また、リアルタイムの参加者アンケートを実施するなど、双方向性のワークショップを行います。

【講師紹介】

第27回学術大会の大会長を務められた井上先生は愛知医科大学運動療育センターに勤務されており、慢性疼痛患者を中心に診療されています。特に慢性腰痛患者を対象とした患者教育と運動療法を組み合わせた外来ペインマネジメントプログラムを運用されるなど、慢性腰痛患者の評価や治療介入に精通されています。今回は慢性腰痛患者の臨床において必要な評価や臨床推論、リハビリテーションについて教えていただきたいと思います。

【文献紹介】

The efficacy of a multidisciplinary group program for patients with refractory chronic pain
 Inoue M et al., Pain Res Manag. 2014
本論文は、難治性慢性疼痛患者に対する学際的アプローチの効果を検証した報告です。9週間にわたる週2時間の認知行動療法と運動療法を含む介入は難治性疼痛患者の痛みを軽減させ、身体機能を改善させました。難治性の慢性疼痛患者においても認知行動療法と運動療法の併用が有用な介入戦略となることが示されました。

Analysis of follow-up data from an outpatient pain management program for refractory chronic pain
 Inoue M et al., J Orthop Sci. 2017
本論文では、文献①に示した難治性慢性疼痛患者に対する学際的治療プログラム終了6ヶ月後の効果を検証しています。認知行動療法ならびに運動療法を中心とした学際的アプローチはフォローアップにおいても痛みを軽減し、6分間歩行距離を改善させることが明らかになりました。認知行動療法と運動療法を併用した難治性慢性疼痛患者のマネジメントは長期的にも有用であることが示されています。

慢性腰痛患者に対するペインマネジメントプログラムの有効性 - 自覚的改善度に影響する因子の検討 -
 井上雅之・他, Journal of Spine Research. 2021
本論文では、慢性腰痛患者に対する患者教育と運動療法を併用した外来型ペインマネジメントプログラムの効果を検証しています。本プログラムは疼痛関連因子や身体機能の改善を認めました。また、慢性腰痛患者の自覚的改善度に影響する因子として、破局的思考や運動耐容能、QoLが抽出されました。慢性疼痛患者においては痛みの除去を主目的としない多角的な介入が有用な可能性が示唆されています。

ワークショップ②
慢性疼痛に対するペインリハビリテーション
アドバンス編;複合性局所疼痛症候群

【企画内容】

本ワークショップでは、慢性疼痛に対するペインリハビリテーションの実践について学ぶことができます。具体的には、アドバンス編として複合性局所疼痛症候群を症例として取り上げて、評価項目の選択や評価結果に基づく病態推論、運動療法やニューロリハビリテーションの実際について学ぶことができます。そして、講師と進行役の先生方、参加者のディスカッション、また、リアルタイムの参加者アンケートを実施するなど、双方向性のワークショップを行います。

【講師紹介】

壬生先生は難治性疼痛患者に対する評価ならびに治療介入について研究されています。難治性疼痛患者の病態は多岐に渡り、様々な要因が混在していることから、その評価ならびに治療介入には非常に難渋します。壬生先生からは自身の臨床経験やエビデンスを基に難治性疼痛の代表格である複合性局所疼痛症候群(CRPS)患者の臨床推論やリハビリテーションについてご教示いただきたいと思います。

【文献紹介】

Validation of the Japanese version of the Bath CRPS Body Perception Disturbance Scale for CRPS
 Mibu A et al., J Anesth. 2021
本論文では、CRPSの一般的な症状の一つである身体知覚異常の評価ツールであるBath Body Perception Disturbance Scaleの日本語版(BPDS-J)を作成し、その妥当性を検証されています。その結果、BPDS-JはTSKや中指の二点識別間距離と有意な相関を示し、CRPS患者の身体知覚異常の客観的評価ツールとして有用であることが明らかとなりました。また、CRPS患者は運動恐怖が強いこと、疼痛強度と身体知覚異常が相関しないことも示されており、大変興味深い論文です。

段階的運動イメージ課題を含む理学療法介入が奏功した慢性期複合性局所疼痛症候群の一症例
 横山由衣,壬生彰・他, PAIN REHABILITATION. 2022
本論文は、外傷後のCRPS患者を対象とした症例報告です。身体知覚異常が生じ、痛みや運動恐怖から学習性不使用が生じていた症例に対し、通法の理学療法に加えて段階的運動イメージ課題を実施された症例です。長期間に渡って介入された患者に対する、難易度を調整したメンタルローテーション課題や運動イメージ課題は身体所有感の向上につながり、最終的にはADLやQoLの向上につながったことが推察されています。このような難治性疼痛患者に対する介入は工夫を要するため、その思考プロセスをご確認いただければと思います。

ワークショップ③
アプリケーションを活用した目標設定

【企画内容】

本ワークショップでは、ペインリハビリテーションの実践においても重要となる目標設定について、目標設定の考え方、共有意思決定ツールを用いた目標設定の具体的方法、設定した目標に基づいた介入プログラム立案といった一連の流れについてワークショップ形式で学ぶことができます。そして、本ワークショップでは経験豊富なファシリテーターのサポートのもと、実際に共有意思決定ツールを体験していただく予定にしています。

患者のセルフマネジメントを高める目標設定

【講師紹介】

友利先生は作業に基づいた目標設定における共有意思決定を促進するためのアプリケーションを開発されています。今回のワークショップでは、模擬症例を通して目標設定の考え方、共有意思決定ツールを用いた目標設定の具体的方法、介入プログラムの立案といった一連の流れを解説いただきます。

【文献紹介】

Characteristics of goal-setting tools in adult rehabilitation: A scoping review
 Okita Y, Tomori K et al., Clin Rehabil. 2023
本論文では、成人のリハビリテーションにおける目標設定に関する文献の特徴を、スコーピングレビューを用いて検討しています。採用された165の文献から、既存の目標設定ツールの特徴やその対象者、ニーズが包括的に概観できます。疼痛患者を対象としたリハビリテーションの臨床実践において、効果的な目標設定を行うために必要な情報として、目標設定ツール別の特徴や対象領域が学べる、興味深い論文です。

Utilization of the iPad application: Aid for Decision-making in Occupation Choice
 Tomori K et al., Occup Ther Int. 2012
本論文では、作業に基づいた目標設定における共有意思決定を促進するためのアプリケーションの開発ならびにその有用性の検証を行っています。90%以上のクライエントがアプリケーションを用いた目標設定によって自身の意見を述べることができたと回答し、90%以上の作業療法士がクライエントの目標設定に際して臨床場面で有用であると回答しました。この結果から、作業に基づいた目標設定における共有意思決定の場面におけるアプリケーションの活用はクライエントと作業療法士の双方にとって有用であることが示唆されており、疼痛領域における活用が期待されます。

Effectiveness and Cost-Effectiveness of Occupation-Based Occupational Therapy Using the Aid for Decision Making in Occupation Choice (ADOC) for Older Residents: Pilot Cluster Randomized Controlled Trial
 Nagayama H, Tomori K et al., PLoS One. 2016
本論文では、アプリケーションを用いた作業に基づく目標設定が、従来の機能障害に基づくアプローチと比較してADLの改善や費用対効果が得られるかについて、無作為化比較試験によって検証されています。その結果、アプリケーションを用いた目標設定は従来のアプローチと比較してADLを有意に改善し、費用対効果も高まることが明らかとなりました。

ハンズオンセミナー
定量的感覚検査のコツとピットフォール

【企画内容】

本企画は、定量的感覚検査の理論を学び、実際に定量的感覚検査を行ってもらうハンズオンセミナーです。定量的感覚検査の必要性を感じていてもどのように実施したらいいのかわかない方、また、実施しているが正確に評価できているのか不安だという方はぜひご参加ください。講師や進行役、ファシリテーターが初めて経験する方にもわかりやすくレクチャーします。

【講師紹介】

服部先生は運動器疾患を対象としたクリニックから痛みセンターまで広く従事され、その中でQSTを指標とした研究を数多く報告されています。本ハンズオンセミナーでは、QSTの理論と実際の実施評価について、その代表格であるTSPやCPM、PPTを評価する意義や、各指標の測定方法やポイントなどについて実技指導も含めてレクチャーいただきます。

【文献紹介】

Association of Chronic Pain with Radiologic Severity and Central Sensitization in Hip Osteoarthritis Patients
 Hattori T et al., J Pain Res. 2021
本論文では、変形性股関節症患者の痛みと関節変形の重症度、そして中枢感作との関連性について検証されています。その結果、変形性股関節症患者の主観的疼痛はX線画像で評価される関節変形の重症度ではなく、定量的感覚検査で評価される中枢感作と関連することが明らかにされています。これらの結果は、関節の変形が重症でないにも関わらず強い痛みを訴える変形性股関節症患者の関節痛には中枢感作が関与している可能性を示唆されています。

Pain Sensitization and Neuropathic Pain-like Symptoms Associated with Effectiveness of Exercise Therapy in Patients with Hip and Knee Osteoarthritis
 Hattori T et al., Pain Res Manag. 2022
本論文では、変形性股・膝関節症患者に対する12週間の運動療法の治療反応性に関わる要因について検討されています。今回の結果から、変形性股・膝関節症患者において、関節変形が軽度であったとしても、治療開始前の疼痛が強く、中枢感作や神経障害性疼痛様症状を有する場合は、運動療法の治療反応性が乏しいことが明らかにされています。介入方法を模索する上でヒントとなる論文です。

Predictive Value of Pain Sensitization Associated with Response to Exercise Therapy in Patients with Knee Osteoarthritis: A Prospective Cohort Study
 Hattori T et al., J Pain Res. 2022
本論文では、変形性膝関節症患者に対する12週間の運動療法の治療効果から、治療反応性が高い集団(30%以上の鎮痛)と低い集団(30%未満の鎮痛)に分けて特徴が抽出されています。その結果、治療反応性が低い集団では広範性の痛覚過敏を認めました。また、罹患部や遠隔部の圧痛閾値や罹患部の時間的荷重は、運動療法の治療反応性に対して中等度以上の予測能を示しました。運動療法前の定量的感覚検査は運動療法の効果の期待値の予測に有用な可能性があります。